Signal & Marginalia

Tanchjim 4U レビュー

概要

Tanchjimは「浅野てんき」(=Asano Tanch)というイメージキャラクターで有名なオーディオメーカー。 超精密なCNCで美しく浅野てんきを彫り込んだDAC「LunaAT(Asano Tanch)」や、イヤフォンの曲面にCNCで美しく浅野てんきを彫り込んだ「Origin LOST MANOR」、Shanlingとのコラボで全面に美しく浅野てんきをあしらったDAP「M3 Plus ASANO TANCH Edition」などを販売している。

中華オーディオだと萌えキャラを絡めるのはトレンドになっていて、とりあえず萌えキャラのイラスト添えてみた的なものもあれば、萌えキャラを添えることがアイデンティティになっているタイプ(CVJとか)もある。 そして、キャラクターに対する熱意も、オーディオに対する熱意も、かなりまちまちなのが今の中華オーディオ。

その中にあって、Tanchjimと浅野てんきは一体となった関係である。

Tanchjimはそのサウンドにひとつの世界観を持っており、それを表現するときには上品、自然、クリアといったキーワードがよく用いられる。 Tanchjimが作るオーディオ製品は本当に美しく、まるで宝石のようだ。 そして、浅野てんきもまた、その世界観を表現するひとつのキーとなっており、ブランドイメージに合わせた上品で落ち着いたビジュアルを持っている。

単純に萌えキャラクターをあしらうことは「上品」といったイメージとは噛み合わないことが多いが、Tanchjimは見事な金属加工での工業芸術に昇華したり、DACのSpace Proでも単に「キャラクターを印刷した」というレベルではない美しいデザイン性を兼ね備えたものになっており、きちんとブランドイメージと調和している。 M3 Plusはカラフルに全面に浅野てんきが描かれていてだいぶ派手だが⋯⋯そこはコラボモデル故といったところだろう。

Tanchjimは自社でドライバーを設計・シミュレーションして作り上げている、数多い中国のオーディオメーカーにあって数少ない存在だ。 そこにはFEA(有限要素解析)という高度な技術が用いられており、データに基づいた精緻な音作りを特徴とする。

つまり、キャラクターに対しても音響に関しても工業技術に関しても凄まじい熱量を持ったメーカーである。 そして、Tanchjimというブランド全体を通しての世界観の構築にも余念がない。

4UはDMT4という、Tanchjimとしては1世代前のドライバーを採用するモデルだが、ハイエンドで培われた技術を落とし込んだTanchjimらしい製品となっている。 4段階の音色調整というギミックも搭載しており、低価格帯モデル(といっても1万円以上する)といえども抜かりはない。Tanchjimの世界に触れるのにちょうどいい存在だろう。

なお、日本ではTanchjim製品はAmazonで販売されているのだけれど、基本的にDMT5製品が中心。 FORCEはDMT4 Ultra、SODAは多ドライバー、入門機のBunnyはまた別のものとなっているが、DMT4を搭載した4Uは販売されておらず、AliExpressでの入手になる。

また、4Uは4つの低音モードを選択可能な仕様。 ドライバ側がATOMSPHERE、反対がNATURAL、ピン側がPOP、反対がMONITORTING。 MONITORINGが最も低音が弱く、Lは時計回り、Rは反時計回りに低音が強くなっていく。

眺める

パッケージ

TanchjimとHiFiGoのコラボ製品は総じてそうだが、パッケージは浅野てんき色が全くないものになっている。

浅野てんきステッカー

だが、中身はたっぷりとQQやDiscordのステッカー風の浅野てんきステッカーが封入されている。 とてもステッカーっぽいが実際にステッカーとして配布されてはいない。 ただ、一部は公式関連アカウントがステッカー風に使っていたりするので画像素材が存在したりする。 4Uのものは特にステッカーとしての使い心地がよさそう。

4U外観

とても美しい。

え、「なんで保護シール外した画像じゃないのか」って?

そんなの簡単だ。ピンを挿すときに落として鏡面に傷がついたからだ。 そうこの鏡面、信じられないほど脆い。そういうのに神経質な人はやめといたほうがいいと思う。

私? あまり気にしないほうだけど、Tanchjimは美しいのでちょっと悲しかった。

先に一言いいたい

イヤフォンのテストは箱出しからそのままやっているわけではなく、ある程度聴いてから実施している。

イヤフォンで何十時間もエージングすることに意味があるなんてことを言うつもりは1ミリもないけど、耳のウォームアップは必要だ。 それに、モノによっては箱出し直後だとさすがに音が違うことはある。これは慣れの問題もあるかもしれないのでなんとも言えないが、だいたいアルバム1, 2枚くらい流せば「音が変わったか?」みたいなことを思うことはなくなる。

というわけでだいたいの場合

  1. アルバムを1, 2枚くらい聴く
  2. しばらく時間を置く (耳をリセットするため)
  3. 1曲、耳につけずに流す (念の為のウォームアップ)
  4. テスト開始

みたいな流れになっている。 ちなみに、ウォームアップは「物理的には変化しうる」というくらいの理由であり、実際にイヤフォンにおいてウォームアップの有無で違いを感じたことはない。 コンデンサーマイクとかだとウォームアップしないと音が安定しないとかあるし、真空管だと必須だけどね。イヤフォンなんで、極小の振動板を微弱な電流で動かしてるんだから、ウォームアップもなにもあるかい! と心の中で思っている。

まぁそういうわけで箱出しの音は別途聴いていて、それが良い印象になることはあまりない。

んだけど、4Uはその時点で「こいつはヤバいかもな……」になった。 マイルドで、明瞭で、聴きやすい。既に想像以上。

その期待、テストでどうなったかというと……

テスト

テストプレイリストについてはこちらの記事を参照

原神の3曲は表現力に不満はないが、結構マイルドなので若干の物足りなさもある。 イヤーピースが浅いのが影響している感じ。 また、ダイナミクスに対する階調表現が若干段階を隔てているように感じられる。

「迷子の街」はヴォーカルの近さを感じる。 そんなに余裕はない感じがするが、痛さ等はなくきれいに鳴らせている。

「flow」はベースが綺麗に聴けているという印象が強い。迫力という意味ではなく聴き取りやすいという意味だ。サビではシンセとヴォーカルが強いため、ベースが綺麗に聴けているのはかなりの精度を感じる。 シンセは若干下がって聴こえる。

「ハマルの幸福」は結構厳しいサビのハモリも問題なくこなした。 よく調和できており、非常に高く評価できる。

「SELENiTE」は余裕はないもののうまく調和できており、十分な成績。

「Golf」は結構強い。そこまでマイルドな感じはせず、割と攻撃的なミックスは攻撃的に出してくるんだなという印象。 これならメタルフリークにも受け入れられるだろう。 それでも痛くない範疇に収まっており、激しいメタルサウンドにも対応できるというのを感じる。しかしあくまで「対応できる」の範疇で、メタルを気持ちよく聴くイヤフォンではなさそうだ。

「Lyin’ me」はニュートラルな感じで聴ける。 非常に低音が強い曲だけど、しっかり低音も出ているし、低音のキレが非常に素晴らしい。 この曲はかなり相性が良さそうだ。

「Scent」も基本的に問題ない。が、ピアノがキンとする瞬間があり、高めの音が苦手という話なのかもしれない。 クライマックスのほうで高くなる部分はちょっときつめ。

「眠れない」バッキングトラックが強めに聴こえる。やや調和が悪く、音が個別に聴こえている感じがある。

「Lost Child」は強すぎて若干痛い。

「真夜中プライスレス」はかなり気持ちよく聴ける一方、ややベースが不鮮明。

「Hype」は低音がかなり気持ちよく聴けるし、Suchさんのヴォーカルも映える。 ただ低音の聴き取りに関してはやや甘くなってしまい、「気持ち良いけどちょっとぼやけている」になる。 プレイリストを通して最も気持ちよく聴けた曲だった。

「Decay」は結構な迫力があるサウンドになるが、音が大きめで統一された曲なので、音量が大きいことに対するネガティブさが若干見える。

余裕はないが、十分なqualified。

モード切り替え

実はテストの途中までATOMOSPHEREモードになっており、途中で気づいてNATURALでやり直した。

最も苦手そうに感じた「眠れない」を各モードで聴いてみる。

……うーん、微差だな。 ATOMSPHEREは明確に違うので分かるけれど、他の3つは差が小さすぎて、A/Bテストしたら通せる気がしない。

「眠れない」だとバランスが最も良いのはMONITORING。

ただ感じたのは、バランス云々よりも、「最も音量を下げて聴けるモードにする」のがいいと思う。

所感

清楚1な音がする。 なにかを強調したり演出したりすることのない、モニター的なサウンドが基本的な性格だ。

モニター的ゆえにマイルドさを持っているけれど、強めのミックスがされている曲は普通に強めに聴こえる。面白みはないけれど、面白みよりも忠実なサウンドを求める方向性に感じられる。

お値段は11600円。決して安くはないイヤフォンだけれど、その価値は十分にある。 これまでなおESXを越えられていない感じだけれど、アレはアレがバグってるだけなので、4U自体は価格に見合った優れた性能を持っていると思う。

ただ、パーフェクトというわけではない。

イヤフォン自体は非常にバランスが良くどんな楽曲も受け入れられるが、どんな音に対しても懐が広いというわけではない。 Powerampで音楽を聴いた際は、プリセットによるイコライザが適用され、結構痛い音になってしまった。

また、音量に対しても寛容でなく、大きい音量で聴くのには適していない。 テストは前提としてかなり大きい音で聴いているが、音量を1〜2段下げればネガティブに感じる部分は全くなくなる。 逆に音量が小さいときは相当いい感じに聴ける。今は「音量が大きい状態で痛くなく聴ける」ことを中心にしたテストしかしていないけれど、もしかしたら「音量が小さい状態で適切に聴き取れる」というテストもしたほうがいいのかもしれない。

ちょっと気になる部分が、イヤーピース。 素材は悪くなさそうだけど、ちょっと厚手であんまりフィット感はよくない。 つまりは、市販品を使ったほうが良好な可能性がある。

あと、鏡面加工部分はちょっと弱すぎる。

トータルで見た場合、概ね「期待通り」といったところ。 DAWN Msのときにも言ったけれど、このクラスのイヤフォンに求められる性能はかなり高いところにあるため、相当良いのは間違いけれど期待を大きく上回るほどではなかった。

けれど、良さの片鱗はかなり見える。

特にハウス系の曲ではキックのキレが素晴らしく、音を少し控えることでその上品なサウンドを味わいやすくなり粗はかき消される。

また、クセのないイヤフォンなのでゲームや動画など、様々なシーンで起用しやすいのも魅力的だ。

強く推せるほどではないが、Tanchjimというメーカーへの興味を維持するには十分な結果だったと言える。


  1. 性知識に疎いという意味ではない。↩︎